2021.7.18
ワタシの仕事

診療報酬から考えた、特定看護師の役割とは

 

 

皆さまはじめまして。私は主に看護師の皆さまを対象に、働き方や待遇面をより良くするために働いている院内コンサルタントのKと申します。これまで10年間で4つの病院で勤務経験があり、多くの看護師さんから意見を頂戴し、改善活動に活かしてまいりました。今回は、「診療報酬を考えたときに、特定看護師はどのような役割を求められるのか?」というテーマでお話したいと思います。

 

診療報酬制度と特定看護師の関係性とは?

2020年度診療報酬改定において、「総合入院体制加算」の要件が見直され、新たに「特定看護師の複数名配置及びその活用」が追加されました。これにより特定看護師は、医療の質向上の役割を求められていた立場に加えて、施設基準の取得による増収という経営面を支える重要なキーパーソンの役割も担うことになりました。

この改定の背景には、医師の業務負担軽減を目的とした働き方改革があります。2019年4月より、全国的に時間外労働の上限規制の義務化が設けられておりますが、医師については5年間の猶予期間が設けられており、2024年4月から「年間960時間(月80時間)」を上限とした規制が設けられる予定です。この医師の時間外労働規制に向けた対策の一つとして、医師業務の一部を多職種へシフトすること(タスク・シフティング)が重視され、高度な知識と技術を持っている「特定看護師」に白羽の矢が立てられることになりました。

ちなみに特定看護師は、2015年から開始された「特定行為研修」を修了した看護師を指すものですが、現在全国で2000名程度が特定看護師として認定されており、全国的需要に比べて修了者が非常に少ないことが課題の一つとなっております。次の見出しでは、特定看護師の現状についてもう少し深堀していきます。

 

全国の特定看護師の実情

ここでは、特定看護師の現状について簡単にお話させていただきます。特定看護師は、本来医師しかできない医療行為を医師の作成した手順書をもとに実施できる看護師のことを指します。しかし先述のとおり全国で2000人程度しか修了者がいません。例えば、全国の医師数や看護師数と比較してみると、医師の場合は、医師総数32万7000人程度に対して特定看護師2000人と、医師数に対してわずか0.06%程度しかいません。医師の代わりに医療行為を行うことが求められているにも関わらず、明らかに全国的に人数が足りていないのが分かると思います。また、看護師の場合は、全国にいる看護師の人数が121万8000人程度なので、全体のわずか0.0016%しか特定看護師になっていません。なぜここまで少ないのでしょうか。その背景には、以下2つの要因があるのではないかと言われています。

1つ目は、長期間にわたる研修期間にも関わらず費用対効果が低い点です。特定行為研修は、6ヶ月~1年程度と長期間の時間を要します。その間、医療機関は研修中の看護師の穴を埋めるために人員配置の見直しや勤務時間の調整等を行うわけですが、そういった業務が発生する一方で、算定要件に特定看護師が挙がっていないため病院収入が増加することは無く、病院経営の観点から見ると、研修を受けてもらうことが果たして病院にとってメリットが多いのか、それともデメリットが多いのかの判断が難しい実情があります。しかしながら、今回のテーマにあるとおり2020年度診療報酬改定で特定看護師が算定要件に加わったため、この問題は解決したと言ってしまっても良いかもしれません。

2つ目は、特定看護師のもたらす効果が不明確である点です。特定看護師がいることによって医師の業務負担の軽減に直結することは間違いないのですが、それがどの程度の軽減効果につながるのかが数値化できないという問題があります。特定看護師の働きにより、医師の時間外労働時間が減少すれば分かりやすいのですが、私の知る限りではそこまでの劇的効果に至っているケースは聞いたことがありません。このような状況により、病院として特定看護師の人数を増やすかどうかの判断が難しくなっているわけです。しかしながら、こちらについても診療報酬改定により解消の方向に進み始めたように思います。以上のとおり、これまでは特定看護師や特定看護師を目指す看護師を取り巻く環境は厳しいものでしたが、今回の診療報酬改定により風向きが少しずつ変わってきたように思います。

最後の見出しでは、これまでの内容を踏まえたうえで「診療報酬を考えたときに、特定看護師はどのような役割を求められるのか?」について、お話したいと思います。

 

診療報酬を考えたときに、特定看護師はどのような役割を求められるのか?

2020年度診療報酬改定により、特定看護師のあり方は大きく変わろうとしています。その中で、やはり特定看護師や特定看護師を目指す看護師の皆さまも、この変化に応じた対応が必要になってくると思います。そこで、診療報酬から見た特定看護師の役割について、2つお話したいと思います。

1つ目は、「特定看護師による医師からのタスク・シフティングの積極的提案」です。制度が変わり特定看護師を取り巻く環境は間違いなく良い方向に変化していますが、一方で、まわりの医療従事者の意識はなかなか簡単に変わるものではありません。特定看護師が有効に機能するためには、シフトする側の医師の理解・協力は必須ですし、また、特定行為に該当しない行為については、特定看護師の手を離れて、一般の看護師にシフトされていくことが予想されます。この両者の業務シフトを円滑に進めるために、医師や看護師の理解・協力は必須であり、そのためには、特定看護師の制度を熟知している自分自身が積極的に行動・実践するほかありません。最初は、まわりの戸惑い・反発が予想されますが、特定看護師の有効活用は必ず現場にとって、そして病院経営にとってプラスに働きます。ぜひ、特定看護師の方は、今以上に積極的に行動してみてください。そして、特定看護師を目指す方は、今は理解・協力する立場で、制度が順調に現場に浸透していくように努めていただけると良いと思います。

2つ目は、「特定看護師の積極的な情報発信」です。今回の診療報酬改定では、今後数年間で、大幅に特定看護師が増えることが前提として制度設計されています。しかしながら、現状の修了者は2,000人程度と、認知度の低さと特定看護師のメリットが十分に伝わっていないことは明らかです。そんな中で、今回の改定をきっかけに、改めて特定看護師による積極的な情報発信が強く必要だと思います。特定看護師の魅力を一番詳しく語れるのは、やはり特定看護師本人であり、経験談に基づく情報は、多くの医療従事者にとって有益なものになります。それにより、多くの人に「特定看護師になりたい」、もしくは「特定看護師になってもらいたい」と、制度変化に合わせてまわりの意識も変化させることが大切だと思います。私の知っている特定看護師の方の中には、早速「特定看護師による院内通信」を企画している方がおり、そういうエネルギッシュな行動が、まわりに良い変化をもたらすのだと思います。この記事もその一環となればと思いますが、皆さまもぜひ積極的な情報発信にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

まとめ

皆さまいかがでしたでしょうか。特定看護師を取り巻く環境は良い方向に変わり始め、特定看護師の活躍が期待されています。特定看護師の方も、特定看護師を目指す方も、ぜひ自分が求められている役割を再認識し、積極的行動を起こしていただけると幸いです。皆さまのさらなるご活躍をお祈りしております。ありがとうございました。

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