「日本が抱える問題は?」と聞けば、多くの人が「少子高齢化」と答えるでしょう。内閣府が2003年に行ったアンケート調査によると、少子高齢化が進むことについて8割の人が「(非常に)望ましくない」と考えているようです。看護師にとっても他人事ではなく、以下のような影響が考えられます。
看護師は、「手に職」タイプの仕事の代表格です。比較的高収入で、常に多くの求人があります。しかし、このように安定した立場に、少子高齢化が水を差すかもしれません。医療費の抑制が必要になるからです。
看護師のあなたがもらう給料の源は、大部分が公的保険です。病院は、得た収入の一部をスタッフへの給与に充てているわけですが、その収入源は患者の自己負担額と公的医療保険からの給付金です。負担割合は70歳未満が3割、75歳未満が2割、75歳以上の後期高齢者が1割。公的医療保険制度にとっては、患者が高齢になればなるほど負担が増えるのです。
後期高齢者の医療費は、その9割が税金や現役世代の健康保険料などでまかなわれています。このまま少子高齢化が進むと、どうなるでしょうか。保険料を負担する人が減り、一方で医療費に占める保険負担の割合は増えます。すると財源がなくなってしまうかもしれません。
財源確保のため、医療費は縮小の方向に動くでしょう。政策としては、公的保険の適用範囲を狭められることが考えられます。病院によっては収入体系が変わり、中には倒産したりリストラを行ったりするところも出てくるかもしれません。
看護師も待遇の面で格差が生まれるかもしれません。少子高齢化には、医療・看護業界のあり方を変えるインパクトがあるからです。
平均余命が伸び、高齢者が増えると、在宅医療や終末期医療が増えていくでしょう。もともと在宅療養を望む声は多く、厚生労働省の「終末期医療に関する調査」によると、過半数の人が「終末期を自宅で療養したい」と答えています。実際、在宅患者訪問診療料のレセプト件数は2010年から2014年の間に2倍になっているのです。
看護業界が変わることは、考えようによってはチャンスです。独立して訪問看護ステーションを立ち上げようとする看護師にとっては、市場の成長が追い風になるでしょう。病院勤務においても、特定行為研修を修了した看護師が重宝される可能性があります。
反対に、つちかってきた専門性を活かす機会が減ってしまう人もいるかもしれません。少子高齢化問題を、キャリアについて考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
最後は老後の話です。これは看護師に限ったことではありません。日本国民全員が、年金をもらえる年齢が遅くなったり、金額が少なくなったりする可能性があるのです。
年金を受け取り始める年齢は原則的に65歳ですが、かつては60歳でした。高齢化に備えて財源を確保するため、2000年に法律の改正が行われたのです。同じように将来、先延ばしされる可能性はあります。2018年に財務省で開かれた財政制度分科会で、それをほのめかすかのような報告がありました。それは、年金受給開始年齢を68歳にした場合の財政についての試算でした。
支給額そのものも、実質的に減るかもしれません。受け取る年金は年度ごとに少しずつ変わっていきます。物価や賃金の上昇に合わせる形をとりますが、これらがいくら上がっても、年金額の上昇率はある程度抑えられます。例えば、物価が1%上がっても、年金は0.5%しか上がらないということがありえるのです。この制度をマクロ経済スライドと言います。
「親や高齢の患者がそれなりに年金生活を楽しんでいるから、私も心配ないだろう」と考えるのは早計です。将来に向けて、何らかの「お金の準備」をしておくべきでしょう。
少子高齢化は、医療・看護業界の仕組みを変える可能性があります。看護師してのキャリアと将来のお金について、考えてみることをおすすめします。